
山陽学園大学地域マネジメント学部 教授
持続可能な地域づくりや環境政策において、現代日本の地域社会が直面している最大の課題は何だとお考えですか?
一つは、目指すべき地域の将来像(ビジョン)を掲げること、もう一つは、ビジョン実現に向けて、市民、企業、自治体、大学等が個別にあるいは連携して、どのような事業、取り組みを具体的に進めていくべきか計画することです。
この2つを地域の多様な主体が議論して取りまとめ、地域全体で共有し、責任を持って実行していく組織体制がないことが、地域社会の最大の課題です。
また、持続可能な地域づくりの担い手を育成する仕組みが求められます。地域のリーダーとなりうる自治体の首長(知事、市長など)が選挙公約や施政方針において述べている内容は、概して持続可能な地域づくりについて部分的であり、推進力が不足しています。
地域おこし協力隊が活躍している事例もありますが、地域おこし協力隊の任期は3年以内と限られており、中長期的に本質的な結果を出すための取り組みの実施が困難です。ですので、一定の成果を生み出せば自治体やまちづくり組織等で好条件で雇用される制度にする必要があります。
産学官連携コーディネーターとして、自治体・企業・市民・大学との連携例や、その難しさ・やりがいを教えてください
難しさとしては、第1に、地域の各主体のポテンシャルを把握することです。第2に、各主体が連携することにメリットを感じ、相乗効果が生み出されるようにすることです。
第1について、私のように他の地域からやってきた場合、当初は各主体のポテンシャルがわからないため、たまたまご縁のあった自治体や企業と連携して取り組んでみることになりがちです。第2については、相手に敬意を払い、相手の意思決定に与える要因を理解して、双方がメリットを感じられる取り組み内容に調整していくことがポイントです。
私が携わった事例に、岡山県玉野市におけるネクストイノベーション(玉野市)と京セラコミュニケーションシステムの連携によるソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)事業があります。私が玉野市役所の再生可能エネルギー推進に関わる委員になったこと。ソーラーシェアリングに取り組む企業が玉野市内にあることを知ったこと。京セラグループ(前職)のソーラーシェアリングへの参画意向を把握していたこと。私がこれらをコーディネートしたことが事業のきっかけとなりました。
産学官連携のやりがいは、実際に地域で事業が具体化した時に感じます。
フードロス削減、コミュニティ活性化などSDGsとの関わりが生まれています。教授が考える「地域主導SDGs」の課題はなんでしょうか
地域主導SDGsの課題は、長期的な視野に立って活動を継続させる組織体制づくり、事業費確保です。
取り組みが属人的であると活動は継続しません。熱心な担当者の異動により取り組みが縮小したり、有能な人に仕事が集中し疲弊して辞めてしまったりしては、取り組みが道半ばで終わってしまいます。どこの部署にいてもSDGsに関わる活動を推進できるような、部署横断的な組織体制が必要です。
2024年度に岡山市消費生活センターと山陽学園大学が連携して、岡山市民にフードロス削減の取り組みを広げることを目的としたラジオCMを制作しました。学生がフードロスについて学習し、岡山市内の流通業者の取り組み現場をヒアリング調査し、それらを踏まえてラジオCMのシナリオを作成し、ナレーターをつとめました。学生にとって良い経験となりましたが、このラジオCMだけでは効果は限定的です。
昨年度は岡山市が予算を確保したため本事業を実行できましたが、2025年度に本事業を発展させるような事業にかかる予算はつきませんでした。
地域においてSDGsに継続して取り組むためには、長期的な事業計画に基づき、事業費が確保されることが課題です。
酒井教授ご自身が今後、地域や社会で実現したいプロジェクト・ビジョンをお聞かせください。
地域の課題解決に取り組むプロジェクトが、既に多くの地域で進められており、これは貴重なことです。しかし、これまでのインタビューの回答と矛盾して聞こえるかもしれませんが、私は正面から「地域」をテーマとすることには限界を感じています。
学生と一緒にいると、関心ごとは、恋愛、おしゃれ、遊びなどであることがわかります。若者が、素敵、楽しいと感じるイベントや活動の場が地域にたくさんあることが、地域のあるべき姿(ビジョン)です。そして、そうしたフィールドをつくり、経験してもらうことが持続可能な地域づくりプロジェクトであり、私の任務です。
この8月に、ぬるま湯キッチン(岡山市北区北長瀬表町)が企画する「つどい場」に学生とボランティアで参加しました。つどい場は、地域の子育て家族のつながりをつくり、少しでも孤育、孤食にならないようサポートする取り組みですが、私は、学生にボランティア参加を呼びかける際に高邁な説明はしません。
学生は、調理補助、水遊びや素麺流し、子どもとの遊びを楽しみ、また来たいと言っていました。学生が参加して楽しいと感じて、活動が継続すれば成功だと思います。
最後に、環境政策や地域作りに携わりたい学生や社会人、読者にメッセージをお願いします
持続可能な地域のビジョンやプロジェクトをつくり、推進していくことは一人でできることではなく、様々な人や組織と協働することになります。自分が地域社会を変えていくことは途方もないことに思えますが、「一人の行動は小さくても、社会全体が変わるきっかけになりうる」というメッセージをみなさまにお送りします。
私を含め人が人生で成し得ることは限られています。私は、持続可能な地域をつくりたいという思いで30年近く仕事に取り組んできました。私が携わったいくつかの地域では具体的な取り組みも生まれましたが、社会全体から見ると微々たるものです。
大学での講義や地域における活動を通じて、私の言葉が学生の心に届き、学生の活動を後押しできれば、私の仕事も次代につながります。
みなさま自身の取り組み、みなさまとつながった人や組織の取り組みによって、社会は少しずつ持続可能なものに向かっていきます。自分の可能性を信じて、役割を見つけ、なすべきと思うことに力を尽くしましょう。