日本大学スポーツ科学部の佐々木達也教授にインタビューしました

インタビューさせていただいた方
佐々木達也教授
佐々木達也教授

日本大学スポーツ科学部 教授

経歴2011/1〜2014/8 東京ヴェルディフットボールクラブ株式会社 事業本部 副本部長
1995/4〜2010/11 株式会社アサツーディ・ケイ スポーツ局 副部長

佐々木教授がスポーツ科学・身体運動文化の分野に進もうと思ったきっかけや、研究者人生の中でターニングポイントとなった出来事にはどのようなものがありましたか?

私の専門分野は、スポーツマネジメント領域の中では、スポーツビジネスやトップスポーツマネジメントと言われる分野になります。

私は、広告代理店で勤務していた時に、スポーツマネジメントに関心を持ちました。そのきっかけは、フェラン・ソリアーノ氏がFCバルセロナの元副会長として執筆した著書「ゴールは偶然の産物ではない」を読んだことです。クラブを強くするためには、スポーツマネジメントが必要だということを認識しました。

その影響を受けて、社会人大学院にてスポーツマネジメントを学び「川崎フロンターレの上位安定クラブへの発展に関する研究」という修士論文を執筆ました。その後、Jリーグクラブ勤務で学んだことを実践できた部分とできなかった部分がありましたが、プロスポーツクラブの発展に貢献できるのではないかと思い、研究者の道に進みました。

「ゴールは偶然の産物ではない」に出会わなければ今の自分はないと思います。

世界や日本各地の「エスニックスポーツ」について、その魅力や社会的な意義をどのように捉えていらっしゃいますか?特にフィールドワークで印象に残ったエピソードなどがあれば教えてください。

以前、柔道に仕事として携わった経験があります。危険を伴う競技ゆえに一時期体育の授業から除外されていましたが、武道選択制として復活しました。

柔道は、人間形成を目指す倫理・教育の枠組みであり、稽古を通じて自己と他者をより良くする実践であると言われております。講道館という組織もまた、他のスポーツにはないものであり、宗教的な感覚を得ましたが、実際には違います。講道館は柔道の技術的・教育的基盤を保持しつつ、国際ルール形成、文化保存、指導者育成、社会貢献を通じて現代の柔道を支える中核的存在です。

他のスポーツにはない、武道ならではの文化があり、それが世界に伝承されて、今やフランスやブラジルは本家日本よりも競技人口が多くなっています。グローバル化されつつも、日本発祥の武道としての独特の世界観に感銘を受けました。

教授はYouTubeやSNSなどで発信活動をされていますが、現代のスポーツメディアの果たす役割や、拓ける未来像をどのように考えていますか?

かつては、4媒体(新聞・雑誌・ラジオ・テレビ)が主流メディアでした。その後、インターネットの発展とともに人々が情報を入手するメディアが変化してきました。

現在、プロスポーツクラブにとって最も重要と言えるファン獲得方法は、インターネットメディアによるものが多いと言えます。「ファンエンゲージメント」と言って、ファンとの間に築かれる、感情的かつ継続的なつながりや関係性の深さを重要視します。SNSで情報を拡散して、そこに共感を得る(いいね!)ことやファンがクラブの情報を発信することで二次的に情報が拡散されるメリットがあります。

現代において、クラブがファンを獲得するツールとして最も効果的なものがSNSだと断言できるでしょう。ただし、SNSには偽情報(フェイクニュース)や詐欺情報が多く含まれるため、使う側に対応能力が求められます。

スポーツ科学や人類学的研究を志す学生や若手社会人に対し「こういう現場を見てほしい」「これを実践してほしい」と感じることは何ですか?

スポーツビジネス分野においては、ライブエンターテイメントをリアルで観戦することは大事です。また、世界中のコンテンツが、インターネットを通じて視聴することができます。それを観て様々な問題意識を持ってほしいと思います。

そのスポーツコンテンツは誰のためにあるのか。スポーツビジネスが発展するために必要な要素は何かを常に追い求めていくことが大事だと考えます。その上で、スポーツビジネス分野においても、多くの先行研究文献が存在します。研究をしていく上で、先行研究を土台にすることは非常に重要です。研究者を志すには、多くの文献を読むことを勧めます。

最後に、スポーツ科学・スポーツビジネスの分野を志す学生や社会人に、アドバイスやメッセージをお願いします。

研究者を志す人々は最近特に増えてきたように感じます。しかしながら、狭き門ではあるので、目指しても簡単になれるものではありません。

私は、運良く研究者になって今年で11年目です。最も好きで興味関心がある世界の中で仕事ができることに幸せを感じています。私は、スポーツビジネスの世界で従事してきたことが、この世界に入るきっかけになりました。

日本はスポーツビジネスでは、欧米に後れを取っていると言われております。それは、サッカーで言えば、Jリーグはまだ約30年、NPBにおいては約90年ですが世界のスポーツビジネス発展の歴史においては、まだ浅いと言わざるを得ません。

個々人が問題意識を持ち、研究により日本のスポーツビジネスを発展させるんだという志を持って、研究に励んでもらいたいと思います。

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