岐阜医療科学大学の篠原範充教授にインタビューしました

インタビューさせていただいた方
篠原範充教授
篠原範充教授

岐阜医療科学大学 教授

経歴2005年岐阜大学 大学院 工学研究科 博士後期課程 修了
2006年より岐阜医療科学大学保健科学部で講師、准教授を務め、現在、同大学広報部長、放射線技術学科学科長、教授として活躍。
所属学会日本放射線技術学会、日本放射線技師会、日本乳癌学会、日本乳癌検診学会、医用画像情報学会、日本医用画像工学会

放射線技師が正しい読影をするための眼を鍛えるには、どのようなトレーニングや体験が効果的だと感じられますか?

画像を正しく読み取る力を養うには、「正常な人体構造をよく知る」ことが基本です。特にマンモグラフィでは、腫瘤や微小石灰化といった病変の特徴を理解することが欠かせません。そのため、医師と一緒に画像を見ながら意見を交わす勉強会や、典型症例を集めた学習データや専門書を繰り返し確認することが効果的です。

近年は電子書籍やe-learningの普及により、時間や場所を問わず学習できる環境も整っています。さらに放射線技師は、患者さんに直接対応し、撮影直後に最初に画像を確認する立場にあるため、病変を見逃さない責任を意識することが求められます。
こうした臨床経験と継続的な学習の積み重ねこそが、読影力を確実に鍛えていく最も確かな道だと考えます。

臨床現場で役立つAI-CADの機能について,具体的な事例や感触をお聞かせいただけますか?

マンモグラフィでは、AI-CADが腫瘤や微小石灰化を自動で示してくれるため、読影時の見落とし防止に大きな力を発揮しています。特に経験の浅い読影者にとっては、「ここを注意して見てください」と指し示してくれる支援診断システムとして、心強い存在です。

また、読影だけでなく、医師によって判断が分かれることの多い乳腺の分類をAIが行うことで、検診間隔をどうするか、他の検査(超音波やMRI)を勧めるかといった判断にも役立っています。

一方で、AIは偽陽性を示すこともあるため、最終判断はあくまで人間の責任であり、AIは“相棒”として活用する姿勢が大切です。さらに今後は、支援診断にとどまらず、AI-CADと技師・医師が一緒に対話しながら読影を進めるシステム、がんの発症リスクを予測する技術、あるいは「絶対に正常」と言える画像を自動で振り分けて医師の負担を減らす仕組みなども期待されています。

さらに、ゲノム情報やタンパク質データなど異なる分野の情報と画像診断を融合させることで、より精密で個別化された医療が可能になると考えられています。AI-CADは、これからの乳がん検診を支える大きな柱の一つになっていくと感じています。

乳腺が密集している日本人女性に対応するため、撮影や画像診断において、どのような工夫をされていますか?

日本人女性は乳腺が密に集まっている割合が高く、腫瘤などの病変が乳腺に隠れてしまうことがあります。そのため撮影時には、乳房をしっかり圧迫し、乳腺の重なりをできる限り減らすことを大切にしています。

さらに最新の「ブレストトモシンセシス」と呼ばれる技術を用いると、乳房を断層のように分割して表示できるため、病変が重なりに埋もれるリスクを下げることができます。

それでも判断が難しい場合には、超音波検査を追加します。超音波はリアルタイムに観察でき、しこりの内部構造や境界の性状、血流の有無などを評価できるため、マンモグラフィを補う有効な方法です。

またリスクの高い方やより詳しい評価が必要な場合には、MRIを併用することもあります。このように複数の検査を組み合わせ、多角的に診断することで、高濃度乳腺でも病気を見逃さない体制を整えています。

患者さんの被ばくを極小化しながら診断精度を保つために、研究現場ではどんな工夫やアプローチが効果的でしたか?

放射線は減らせば安全になりますが、その分ノイズが増えて画質が悪くなり、診断精度が下がってしまいます。ですから大切なのは、「必要最小限の線量で、診断に十分な画質を確保すること」です。

近年はAIを用いたノイズ低減や病変を強調して、見やすくする画像処理も導入されています。一方で、臨床現場で放射線技師が意識すべきことは二つあります。

第一に、装置の品質管理を徹底し、被ばく線量を常に確認しながら画質を担保し、不要な被ばくを抑えることです。これは「レポンシビリティ」にあたり、検査を安全に行うための準備や環境を整える責任です。

第二に、撮影時のポジショニングです。患者さんがリラックスして検査に臨めるよう配慮し、自らの技術を振り返り、研鑽を続けることが求められます。これは「アカウンタビリティ」であり、検査を実際に実行する際の責任を意味します。放射線技師は、この二つの責任を併せ持つ唯一の専門職であることを常に意識する必要があります。

乳がん画像診断の現場と、研究をともに見つめてきた先生ご自身が感じられる「この仕事の醍醐味」や「喜びの瞬間」を、読者に伝えるとしたらどんなエピソードがありますか?

私自身は大学教員として研究や教育に携わる立場であり、臨床経験はそれほど多くはありません。それでも検診業務に関わった際、読影補助として所見を医師に伝え、診断に生かしていただけた経験は強く心に残っています。

直接患者さんに接することは少なくても、診断の一助となれたことは大きな喜びでした。一方で、私の主な活動は研究と教育であり、全国の医師や医療職を対象にした講習や講演を数多く行っています。

講演の場では目の前にいるのは医師や技師ですが、その方々が支える患者さんの数はさらに何倍にも広がります。そう考えると、自分の研究成果や講演内容が、間接的に多くの人々の健康を支えていることを実感でき、大きな社会的やりがいにつながっています。

マンモグラフィやトモシンセシスの品質管理、AI-CAD、医療用ディスプレイといった研究を通じて現場を支え、未来の診断をより良いものにしていくこと、それが私にとってのこの仕事の醍醐味です。

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