駒澤大学経済学部の代田純教授にインタビューしました

インタビューさせていただいた方
代田純教授
代田純教授

駒澤大学 経済学部 商学科 教授

研究分野人文・社会
金融、ファイナンス
銀行経営
経歴大阪市立大学 商学博士
中央大学 経済学修士
2001年4月 (財)日本証券経済研究所 客員研究員
2002年4月 駒澤大学 経済学部商学科 教授

日本ではオーバーバンキングやキャッシュレス化、フィンテックの進展が注目されています。教授の研究視点から、これらの動きが日本の金融制度や利用者行動に与える影響について、具体例を交えて教えてください。

日本におけるオーバーバンキングを考える時、銀行に限定していると、本質が見えません。日本では銀行は株式会社に限定されており、銀行数はおよそ110行と、海外と比べると少ないです。

しかし、信用金庫、信用組合、労働金庫、農協、ゆうちょ銀行等の預金取扱機関を含むと、大きく異なります。海外では銀行に預金取扱機関を含みます。

最近、日本の信用金庫で国債の評価損が大きくなり、また信用組合での不正融資等が問題になっていますが、過当競争の結果と見られています。

日本では、現金に対する信頼度が高く、キャッシュレス化する潜在的インセンティブが弱いです。私は今、フィンランド在住ですが、EUでは現金と紙幣への信頼度が低いため、デジタル通貨を導入することに抵抗が少ないです。

また、日本ではクレジットカードの決済手数料が高く、小売店がカード決済に消極的でした。今でも、日本ではカード決済すると、小売店が2~3%程度の手数料を負担していると理解しています。PayPayでも1%程度でしょう。

他方、EUでは2010年頃に、EU本部が中心になって、カード決済手数料の上限規制を導入し、0.2~0.3%程度に規制されています。このため、現金無しで、カード支払いで、ほぼ毎日生活できます。

大学での金融教育では、理論だけでなく実践経験が重要といわれます。駒澤大学における授業やゼミでの、金融リテラシーや実務知識を身につける取り組みについて教えてください。

ひとつはインターンシップで、10年以上前から単位化しています。講義スタイルの座学と夏季休暇中のインターンシップ経験をセットにして、レポートを提出してもらい、単位認定しています。

インターンシップは、キャリアセンターが紹介するもの、経済学部および経済学部教員が紹介するもの、学生がみずから応募するものと3種類あり、すべて単位認定の対象になります。10年以上前は金融機関は顧客情報の保護等に厳しく、インターンシップに慎重でしたが、最近の状況は隔世の感があります。

このほかに、現代産業事情という科目群があり、大手証券から派遣された講師による授業が行われています。大学教員による授業は、理論に重きをおく傾向がありますが、大手証券による授業では、実務に則した授業となっています。

ドイツを中心とするユーロ圏と日本を比較し研究されているとのことですが、日本の課題や、今後の政策への示唆にはどのようなものがありますか。

最初の質問と回答にも関係しますが、まずマネーロンダリング(以下マネロン)対応でしょうか。ここで言うマネロンは、厳しい本人確認を行い、不正な金融取引を防ぐ、という意味です。

日本は、以前から国際機関(FATF)等により、マネロン対策が甘いと指摘されてきました。私自身、日本にいた時にはピンと来ませんでしたが、4月にフィンランドに来て、生活のために銀行口座を開設しようとして、痛感しました。日本とは比べ物にならないほど厳しいです。

例えば、日本では銀行口座を開設する時、郵送により運転免許証のコピー同封でも可能です。これ自体、フィンランドを含むEUでは考えられないことです。紙ベースのコピーは複製が可能ですし、写真もAIの普及により簡単に偽造できるからです。EUでは、紙幣が完全には信用されていないのと同様に、紙ベースのものは疑われると感じます。また、フィンランドでは金融取引に際し、暗証番号だけでなくスマホによる顔認証が毎回必要です。

最近、日本で証券口座の乗っ取りが問題になりました。本人がネット口座で証券取引する際のパスワード等が盗まれ、損害を被った事件と思います。この件も、口座の本人確認が甘かったことの裏返しではないでしょうか。

日本は治安が良い国でしたから、麻薬取引、脱税等の非合法取引は相対的に少なく、セキュリティー面は緩く、利便性が重視されてきたのであろう、と思います。

金融・証券・財政分野を目指す学生が、大学在学中に最も鍛えるべき能力は何だとお考えですか。また、金融現場で働く上で役立つ学外活動や経験にはどのようなものがありますか。

私のゼミでは、以前に、証券外務員試験や証券アナリスト試験(学生向け)に取り組んでいたことがあります。しかし、これらの資格が就活等で評価されたという感触は、あまりありません。証券会社や銀行等の方に聞いても「資格はないよりは、あったほうがいいです。」という反応です。また、内定後でも外務員等は間に合うという実態もあると思います。

ただし、TOEIC等の英語関係は有効だと思います。私のゼミの卒業生(女性)ですが、コロナになり、対面授業が停止されたなか、ひとりでTOEICに取り組んで800点台をとり、大手海運会社の内定を得た学生がいました。この学生は、体育会女子ラクロスでも活躍してました(コロナ期を除く)。

英語力の育成は時間がかかるため、企業としても欲しい人材なのでしょう。現在、日本の大企業の売上高の50~80%が海外になっていますが、英語で海外において交渉できる人材は少ないでしょう。

また、体育会に限らず、コミュニケーション力が重視されることは前提です。しかし、コミュニケーション能力は企業が求める資質と、学生が理解する意味とでギャップがあると感じます。学生のなかには、単純に会話ができる、といった程度で考えている傾向がありますが、企業ではプレゼンテーション力まで含めて求めているように感じます。

最後に、この記事をご覧の金融医・証券・財政分野を志す学生や読者の皆さんへ、教授からメッセージをお願いします。

最も主張したいことは、スマホによる情報を鵜呑みにせず、自分で確認し判断しようということでしょうか。金融や証券といった分野に限りませんが、世界的にスマホ情報の影響が強まり、その情報に付和雷同する傾向があって、従来は想定できなかったような事態が発生しています。

例えば、スマホで銀行預金の出し入れが可能になっていますが、A銀行が経営危機という情報が流れると、一斉に預金が引き出され、A銀行は経営破綻に追い込まれます。また、スマホにより手数料無料で証券取引ができますが、ミーム株(人気株)に注文が殺到し、証券会社が決済に対応できないといった事態が発生しています。

本人も損失をこうむる可能性があるので、情報は冷静に判断したいものです。

金融新聞DIGITAL合同会社
〒106-0032 東京都港区六本木3丁目16番12号 六本木KSビル5F