法政大学の田澤実教授にインタビューしました

インタビューさせていただいた方
田澤実教授
田澤実教授

法政大学キャリアデザイン学部 教授

経歴2007年中央大学大学院 文学研究科 心理学専攻博士 後期課程単位取得退学。博士(心理学)。
2007年4月より法政大学キャリアデザイン学部 助教、2012年4月より法政大学キャリアデザイン学部 専任講師、2013年4月より准教授、2020年4月より現職。
所属産業・組織心理学会、日本キャリア教育学会、日本キャリアデザイン学会、日本教育心理学会、日本青年心理学会、日本発達心理学会、心理科学研究会

先生が学校から社会への移行期のキャリア発達について、研究しようと思った理由やきっかけを教えてください。

私が学校から社会への移行期に関心を持った原点は、自分自身の進路選択において大きな不安や迷いを経験したことです。1997年に大学へ進学した当時、経済状況は厳しく、教員採用試験も狭き門でした。さらに、私の一学年上にあたる2000年3月卒の世代は、大卒求人倍率が1倍を下回っていました。将来が見えにくい中で、自分はどう生きていくのかを真剣に考えざるを得ない状況だったのです。

臨床心理学のゼミか、生涯発達心理学のゼミかで迷いましたが、ゼミ見学の際に、生涯発達心理学のゼミでは「移行期」を切り口の例にしながら人生全体を扱っていることに興味を持ちました。

私は最終的に大学3年の夏に大学院進学を決断しましたが、社会や経済の状況が個人の心理的な発達や進路選択の意思決定に与える影響の大きさを、自身の体験を通して強く意識しました。この体験から、移行期のキャリア発達を研究することは、自分と同じように不安を抱える学生に寄り添い、より良い支援や制度を考える上で不可欠であると考えるようになりました。

大学生の就職活動において、近年特に変化している傾向や特徴はどのようなものがありますか?

近年の就職活動では、依然として新卒一括採用の枠組みが主流である一方、インターンシップを通じた採用など、多様なルートが整備されてきています。その結果、インターンシップ経由の採用が先行し、その後の一般的な採用スケジュールに影響が及ぶこともあり、学生が早い段階からキャリアを意識する傾向が強まっています。

また、コロナ禍を契機としてオンラインでの面接やエントリーも普及し、地方在住の学生でも物理的な制約を受けにくくなりました。その一方で、一部の企業ではリモートワークから出社へと回帰する動きもみられます。

全体としては、膨大な情報を取捨選択し、自分のキャリアの軸を定めることが難しくなっているという課題もあります。つまり、就職活動の機会は拡大しているものの、その中で「自分らしい選択」をいかに見出すかが、学生にとって大きな課題となっているのが現状です。

大学生活において、学生の主体的なキャリア形成を促すために有効な教育手法やプログラムは何だと考えますか?

主体的なキャリア形成を促すためには、知識を一方的に与えるのではなく、学生自身が「問いを立て、調べ、考え、表現する」という学習経験を重ねることが重要です。

例えば、大学のキャリア科目やゼミ活動において、実社会・実生活における複雑な問題を探究テーマとして設定し、他者と協働して課題解決に取り組む学習活動が効果的です。こうした取り組みを通じて、自らの行動が地域や社会に貢献できると実感することは、就職活動に臨む上での自信にもつながるでしょう。

また、学外のインターンシップや地域連携プロジェクトも有効になりえます。実社会と関わり、自分の関心や価値観を実際に試す場を持つことで、進路選択に対する現実味が増します。この時には、自分なりに工夫する余地があったか、そして、その結果どのようなリアクションが返ってきたかが重要になります。ただそこにいるだけで終わってしまったら良い経験にはなりません。

つまり大学教育においては、知識の習得にとどまらず、試行錯誤を通じて自らのキャリアを形づくっていく学びをデザインすることが重要だと考えます。

就職活動における学生の心理的な課題やストレスに対して、どのような対応策が効果的でしょうか?

就職活動では、多くの学生が将来の不確実性や他者との比較から強いストレスを感じます。中には、「一度の選択がすべてを決めてしまう」という思い込みを抱くケースも見られます。

そこで効果的なのは、キャリアを「一度の決断ではなく、再調整可能なプロセス」として捉え直すことです。そのためには、過去・現在・未来をどうつなげて考えるかという心理的な枠組みが有効になることがあります。ただやみくもに将来を考えるのではなく、「あの過去の出来事にはこういう意味があった」と捉え直し、「それならば未来はこうありたい」と構想を練り、「そのために今できることは何か」を考えることです。このように、過去・現在・未来をダイナミックに行き来する思考を促すアプローチです。

たとえ小さな一歩であっても、自分が納得できる思考プロセスを経ているかが重要です。過去から未来までを含めた全体像を描いておくことで、途中で計画の変更を余儀なくされた際にも、今後の方向性を探る材料として機能します。就職活動はストレスを伴いますが、そこで行う選択が自分自身の主体的なものであると捉えることで、心理的な負担を軽減できると考えます。

最後に就職活動を成功させたいと願う学生にメッセージをください

就職活動を「成功」と考えるとき、多くの人は内定獲得という結果を思い浮かべるでしょう。しかし、本当の意味で大切なのは、その過程で自分自身と向き合い、何を学び、どのように成長できたかという点です。

不安や迷いを抱くことは弱さの表れではなく、むしろ自分の未来を真剣に考えている証拠です。キャリアは一度の就職で決まるものではなく、その後も何度も見直しを繰り返しながら形づくられていきます。ですから、目の前の活動に全力で取り組みつつも、「この経験が将来の自分にとってどのような糧になるのか」という視点を持ってほしいと思います。

また、就職活動で培った自己分析や他者との対話の経験は、社会に出てからも必ず活かされます。焦らず、自分なりの問いを持ち続け、周囲との対話を通して未来を切り拓いていく姿勢が、就職活動を本当の意味での成功へと導く力になるでしょう。

金融新聞DIGITAL合同会社
〒106-0032 東京都港区六本木3丁目16番12号 六本木KSビル5F