
岐阜薬科大学 教授、副学長兼実践薬学研究推進センター長
1987年より大垣市民病院で勤務し、2007年より同病院薬剤部長に就任。現在は岐阜薬科大学 病院薬学研究室 教授、副学長兼実践薬学研究推進センター長。
臨床現場で活躍できる薬剤師を育成するために、教育現場ではどのような「実践力」や「考え方」を重視されていますか?
薬剤師として求められる基本的な資質・能力は、薬学教育コア・カリキュラムに示された以下の10項目に集約されます。教育現場では、これらを柱として学生が臨床現場で活躍できるよう育成を行っています。
- プロフェッショナリズム
- 総合的に患者・生活者をみる姿勢
- 生涯にわたって共に学ぶ姿勢
- 科学的探究
- 専門知識に基づいた問題解決能力
- 情報・科学技術を活かす能力
- 薬物治療の実践的能力
- コミュニケーション能力
- 多職種連携能力
- 社会における医療の役割の理解
これらは単なる知識や技能にとどまらず、薬剤師としての実践力や考え方を形成する基盤となります。
「薬剤師業務の評価」という観点で、現場で見落とされがちだが、実際は重要だと感じているポイントはありますか?
とくに強調すべきは医療安全です。医療事故の中で最も多いのは薬に関する事例であり、薬の適正使用は「当然のこと」と見なされがちです。しかし、その裏には薬剤師による処方内容の確認や疑義照会を通じた処方変更など、日々の地道な実践が存在しています。これらの介入によって、多くの医療事故が未然に防がれているのです。
さらに、患者さんが「医師には直接言いにくいこと」を薬剤師に相談する場面も少なくありません。薬剤師は患者の声を拾い上げる重要な役割を担い、チーム医療の中で患者と医師の橋渡しをしています。
ドラマ「アンサング・シンデレラ」でも描かれたように、薬剤師は“縁の下の力持ち”として、表に出にくい場面でも医療の質と安全を支えています。こうした業務こそ、評価の際に見過ごされてはならない重要な貢献だと考えます。
文献レジストリや副作用報告DBを解析する際に、現場の薬剤師でも意識できる“読み解き方のコツ”があれば教えてください。
文献や副作用報告DBを実務に活かすには、効率的な読み解きが欠かせません。文献検索では、日本語は医中誌、英語はPubMedを用い、専門外分野ではまずサマリーで大枠を掴みます。不明な用語はその都度確認し、翻訳ツールを活用すれば臨床判断に直結する情報を効率よく得られます。
一方、副作用報告DB(JADER、FAERS)は因果関係を証明するものではなく、注意すべき“シグナル”を示すものです。件数の多寡にとらわれず、患者背景や傾向を重視し、文献情報と組み合わせて解釈することが重要です。これらの視点を持つことで、薬剤師は医療安全に直結する判断や疑義照会へとつなげ、現場での価値をさらに高めることができます。
今後、AIやデータ解析技術が進む中で、「それでも薬剤師にしかできないこと」は何だとお考えですか?
AIやデータ解析技術の進歩により、薬剤師の業務は今後ますます効率化・高度化していきます。処方監査や副作用データ解析などはAIにサポートしてもらうことで、より正確かつ迅速に実施できるようになるでしょう。
しかし、それでも「薬剤師にしかできないこと」があります。それは、患者と直接向き合い、人として関わりながら信頼関係を築くことです。患者の背景や生活習慣、不安や価値観を汲み取り、最適な薬物療法につなげることは、AIには代替できません。薬剤師はAIと共存しながら、人間ならではの患者対応力を発揮することで、医療の質をさらに高めていく役割が求められています。
最後に当記事をご覧の学生や、臨床薬剤師を目指す人に向けてメッセージをください
臨床薬剤師は、薬の専門家として最適な薬物療法を提案し、患者さんの健康と生活の質を高める重要な役割を担います。AIやデータ解析の進歩により業務は効率化されますが、薬を患者さん一人ひとりの状況に合わせて活かし、安心と信頼を届けられるのは薬剤師にしかできません。
現場では、薬学的知識と判断力を駆使し、チーム医療の中で自らの専門性を発揮することが求められます。薬を通じて患者さんに貢献する使命感を胸に、学びを積み重ね、ぜひ臨床で活躍できる薬剤師を目指してください。